魔極の瞳の弱点

kanariya022006-05-10

さて、今日もまた同様。
ゴーレム姫炎と水のワルツ編の続きです。


なんとか間に合いました。
もう明日はやばいかも。
さて、激闘は続きます。
今回はリン姫対シルフィですね、なんといっても。
様々な策を巡らし、対策を練っていきます。
ではでは、ご覧下さい。


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シルフィ「…貴様一人か?」
リン姫「ええ、今度は私だけをお相手してもらうわよ」
シルフィ「…何か企んでいるな?」
当然の疑問。
リン姫「ふふっ…勿論♪」
隠しても仕方ないのでさらっと言う。
どうせシルフィはアクアバーストエンドを無効化できるのだ。
知っていようがいまいが関係ない。
リン姫の役目はその無効化をできないようにすることなのだから。
シルフィ「いいだろう。貴様を一瞬で殺せばすむ話だ」
リン姫「そっ、できるもんならお好きにどうぞ」
シルフィ「なら…死ねぇぇぇぇぇ!!」
リン姫(来るっ!!)
リン姫対シルフィ、1対1の対決が始まる。


遠距離より二人の戦いを見守るエスタ。
アクアバーストエンドを放つタイミングを伺っている。
エスタ(リン姫…シルフィ……)
複雑な思いを抱えながらも…じっくりと戦いを眺め続けるのだった。


リン姫とシルフィの戦いは激戦を極める。
陽炎で用いられている幻影を多用し、ヴァンヒューラの攻撃を回避するエストレイア。
元々エンプレスにもシルキーメールの幻惑残像能力を秘めていたので、この手の力は使い慣れている。
ヴァンヒューラの攻撃をかわし、逃げに徹している。
リン姫(馬鹿みたいに早いわね。これじゃ攻撃しようにも先手を取られてしまう…)
逃げに徹しているのはそれしか手がないからだ。
敵のほうが動きが早いため、攻撃をしようと攻め入るとシルフィの方が先に攻撃を入れてくるというわけだ。
無論、向こうの攻撃力は高く、結界師のリン姫であっても防ぐことは出来ない。
特に、魔極の瞳が厄介で作り出した結界バリアの大半を無効化されてしまう。
今生み出している幻影も大半をシルフィにかき消されている。
生み出している幻影の数30。
内20は無効化されているだろう。
そして、広範囲攻撃で一気になぎ払われ、残るのは数体程度。
勿論その数体になるまでにも攻撃は喰らう。
逃げに徹しているとはいえ、どうしようもなく攻撃を受けているというのが現状だ。
リン姫(なんて嫌な力なのよ、この魔極の瞳ってのは…)
広範囲攻撃は複数の敵に攻撃できる分一撃が弱い。
リン姫も直撃は受けないように対処しているので喰らったところで致命打にはならないが、それでも回避に徹していながら攻撃をかわしきれないというのはかなり辛いことだ。
リン姫(とりあえず…効くかは分からないけど、あれを試しておかないと…)
再び幻影を生み出す。
が、今度は数が少なく10体程度。
シルフィ「…?」
何かをやろうとしていることはわかる。
だが、それ以上は分からない。
そして、幻影が動き出す。
シルフィのヴァンヒューラ目掛けて。
シルフィ「何!?」
『ビィシュュュュュュュ…』
とっさに光の衝撃波を放つ。
幻影は次々とその衝撃波につぶされ、残る1体。
その1体は、
リン姫「不知火の舞!!」
実体だった。
不知火の舞、攻防一体のその技は攻撃と防御を同時に行うことが出来る。
炎の舞で回転動作の中に敵の攻撃を振り払いつつ、そのまま攻撃を入れるという技。
リン姫(攻撃で隙は出来てるし、何より攻撃時はバリアを張ることは出来ない)
攻め入るとしたらシルフィが攻撃している時しかない、そう判断したのだ。
しかも、ヴァンヒューラの攻撃は威力の低い広範囲型、かき消せないこともない。
不知火の舞は、
『バァァァァン』
シルフィ「くっ…」
見事決まった。
炎がヴァンヒューラを焼く。しかし、威力は低い。
だが一瞬シルフィの動きが、ヴァンヒューラの動きが止まった。
その一瞬をリン姫は見逃さない。
リン姫「呪縛結界!! 喰らいなさい!!!」
姫お得意の呪縛結界。
リン姫が編み出したリン姫だけが使える魔法。
煉獄の牙に用いられる魔法で、敵を絶対呪縛することができ、ステアやキサラですらこの呪縛に抗うことは出来なかった。
エストレイアとしてレベルアップしたこの機体でこの魔法を使ったならさらなる強固なものとなっているだろう。
そして、なによりリン姫が独自に編み出した魔法故、術式も独特。
魔極の瞳でも破れないのではないか? そう考えたのだ。
試しておかないと…と言っていたのはこの魔法のことだろう。
『ギュゥゥゥゥゥゥゥゥ』
ヴァンヒューラの下に魔法陣が現れ、ヴァンヒューラを締め付ける。
シルフィ「ちぃ……」
リン姫「やっ…?」
やった…そう言いかけるも、まるで動じていないシルフィに不安がよぎる。
『バリィィィィィン』
呪縛をかけてほとんど時間がたっていないのに簡単に破ってみせるシルフィ。
リン姫オリジナル魔法であっても術式はしっかりと見せていたようだ。
リン姫(くっ…あれも効かないか)
シルフィ「うっとおしい…」
冷ややかなその態度はまるで堪えていない様子。


エスタ(駄目です、リン姫)
遠くからその戦いを眺めるエスタ。
どれほど駆けつけたいかと思ったことか。
しかし、ここで自分も向かっては意味がない。
ここはリン姫に任せるしか…。
エスタ(あなたの独自の魔法でも…いえ、あなたの使う魔法はあなた自身が思っている以上に高度な魔法。高度で理にかなった術式が用いられています。だから、魔極の瞳で十分に無効化できるものなのです)
遠くから眺めているからこそ戦況を、戦いの内容をよく理解できる。
エスタ(魔極の瞳の弱点は…弱点は…)
魔極の瞳の弱点、それはエスタにも知りえないこと。
知っていたらとっくに打ち破れているだろうから。


ヴァンヒューラとひとまず距離を離すべく後退中。
リン姫は考えていた。
リン姫(今の呪縛結界を破ったのも魔極の瞳よね。ってことはやっぱ魔極の瞳を破らないことにはどうにもならないか)
リン姫の考え通り。
呪縛結界は魔極の瞳によって無効化された。
魔極の瞳さえなければ呪縛結界はちゃんと効いていたということだ。
そもそもどうにもできないその魔極の瞳が厄介なわけだが…、
リン姫(魔極の瞳の弱点って……)
弱点を…が、思い浮かばない。
自分もその魔極の瞳を使って戦っている。
シルフィの攻撃の大半はこれを使わないと見えないので、使わないわけにはいかない。
そのため、瞳の性質はわかってきているのだが、弱点となるとわからない。
リン姫(眼を閉じさせるってのは…無理ね。目くらましにしろ、眼を傷つけるにしろ、すぐに回復されちゃうだけ…)
相手も治癒魔法は使える、すぐに回復し元の状態へ戻ってしまうだろう。
その案はすぐに却下された。
リン姫(魔法でってのがきついわ。外に何かを仕掛けてもそれ全部魔法だからすぐに解除されちゃう…)
例えば、煙幕で視界を隠すにしたって煙幕自体が魔法によるもの。
つまり、その煙幕が無効化されてしまい、消滅してしまう。
リン姫(視覚的なものでかつ魔極の瞳で無効化されない魔法ってのがいるわね…)
それが理想。
だが、魔法である以上、術式が浮かび無効化される。
リン姫の掲げる課題は難しいもの。
『ジュバッ』
右手に軽く炎を出し、揺らめかす。
緑色の炎。
その小さな炎にも術式が見える。
左手には氷を。
『カラーン』
水晶のような青く綺麗な氷を生み出し、ふわふわ浮かせる。
その氷にも術式が。
リン姫「あっ……」
あることに気づいた。
些細だが、大切なことに。
リン姫(術式の色は一緒……)
緑色の炎も、青色の氷も、術式の色は同じ。
うっすら光を放つ青黒い色。
リン姫(そっか、術式の色が同じなら…破れる!!)
思いついたようだ、魔極の瞳を打ち破る秘策を。
思いたつや否や、向きを変え、ヴァンヒューラの方へ。
臨戦態勢へ。


と、
リン姫「…!?」
先制はシルフィ。
振り返ったエストレイアを待つことなく、魔法弾が飛んでくる。
電撃をたっぷりとバリアの中に込め、噴き出したものだ。
エストレイアのバリアに直撃。
リン姫の張ったバリアを何枚も粉砕していく。
リン姫(うっ、よっぽど電撃練りこんでるのね、頑丈なバリアだことで…)
その頑丈なバリアが破裂したのはリン姫の張ったバリアを5枚も粉砕してからのこと。
どうやら遠距離だと魔極の瞳の無効化は無理らしく、無効化はされていない。
残るバリア数、5枚。
バチバチィ…バチバチィィィィ!!』
電撃が放出されだす。
周囲に飛び散るそれは、
リン姫「ちぃっ!!」
バリアを次々と破壊していく。
もうすぐエストレイアにも雷が降り注がれる。
しかし、リン姫も黙ってみていない。
とっさに、一番手前のバリアを、最後のバリアを前へ押し出す。
同時に、さらにバリアが一枚現れていた。
押し出したバリアの内側に。
瞬時に作り出したのだ。
電撃は止まらずそのままバリアを飲み込んでいく。
押し出した一枚、そして今作り出した1枚を。
そして、
『ビリバチィィィ!!』
エストレイアに直撃。
バリアによって大分軽減されたとはいえ、エストレイアには甚大なダメージ。
雷は亜空間フィールドのリン姫の元にまで押し寄せる。
姫の体を走る電撃。
リン姫「ハッ!!」
何かの掛け声を放ち、両手を横へと大きく振る。
理屈は分からないが、リン姫の体にまで走った電撃はそれで退けられた。
バリアで軽減され、エストレイア内を駆け回って亜空間まで来た電撃は微弱なもの。
とはいえ、簡単に振り払ってしまう原理は謎である。
なんでもできる魔法使いならではなのだろう。
手をぱらぱらと振りながら、
リン姫「いったいわねぇ〜。普通死ぬわよ、あれ」
イリス「普通じゃなくても死んでますですよ、御主人様」
今まで口を挟まなかったイリスがツッコミを入れる。
ちなみにイリスは想像を絶する戦いを目の当たりにして御主人様に絡んではいけないから口を挟まなかった…というわけではない。
御主人様にしゃべるなと命令されたから今までしゃべらなかったのだ。
リン姫(今ので分かった。直撃なんて受けたらまず死ぬわ…)
今のは遠距離攻撃。
先ほどは遠距離での翻弄戦だから、軽傷で済んでいた。
今の遠距離攻撃は、直撃ではないが直撃に近いもの。
正面からまともに攻撃を受けたのは初めてといっていいだろう。
もし、バリアを張っていない状態だったら…あるいは、
リン姫(魔極の瞳を破るには乱戦狙いになる、…なら接近戦か)
乱戦…となると、相手以上にリン姫が危険になる。
なんせ、不安定な状態での戦闘、いつ直撃を食らってもおかしくないのだから。
リン姫(魔極の瞳を破る手立てはあるにしても、接近戦で直撃に耐える方法が必要ね)
攻撃を喰らわない方法というのも当然考える。
とはいえ、最悪のケースも考えて喰らっても耐える方法をも考えておかなければならない。
しかし、電撃の一件からも分かるように、リン姫のバリア最高の10枚を張っても攻撃は防げない。
10枚張った上に技巧を凝らしてなんとか凌いでいるほどだ。
直撃を耐えるなど無理な話である。
さらに近接戦だと魔極の瞳で魔法をかき消されかねないし…。
リン姫(私の、この眼の力に…頼ってみるか)
魔極の瞳の力を…。
何か策を思いついたようだ。
リン姫「エスタ、準備して」
エスタ「えっ?」
リン姫「魔極の瞳を…封じる!」
エスタ「! は、はい!!」
エスタ(見つけた…? 魔極の瞳の弱点を…)
突破口への狼煙。
リン姫「勝負!!」


エストレイア、大きな弧を描くようにグルグル回りながらヴァンヒューラへと近づいていく。
正面から一直線には近づかない。
周回数を多めに徐々に徐々にと近づく。
とりあえず軌道を読みにくくし、かわしやすいながらにシルフィに近づくにはこれが一番だ。
シルフィはリン姫のその攻め方に正面から迎え撃つつもりらしい。
これはリン姫としては戦いやすくていいことだろう。
エスタだとこのようにはならない。色々動き回っては自分の戦いやすい方へと持っていく。
思考も似ていることからというのもある。
リン姫の場合は戦闘パターンの違い、発想の違いで何をしてくるかわからない。
特に戦闘開始時に3発喰らったのが頭に強く残り、うかつに仕掛ける気にならなくなったのだろう。
だから、向こうの戦略にあえて乗る…というスタンスを取っている。
リン姫(行く…!)
エストレイアの右手が光を放つ。
何かの魔法なのだろう。
シルフィもそれに気づく。勿論何もしないわけではない。
迫り来るエストレイアへの攻撃の構えを取っていた。
額の前に浮かぶ6つの魔法球。
その6つの球がエストレイア目掛けて襲い掛かる。
リン姫「陽炎…」
その言葉と同時に、
『ババババァァァァァァァァァン』
魔法球と衝突。
エストレイアは炎となる。
実体はその炎の背後に現れ、軌道を変える。
ヴァンヒューラの背後へ回り込もうとしている。
シルフィ(こいつ…魔力を溜めて、直前で使っているのか!)
魔極の瞳を使えば魔法を使っているかどうかわかる。
使っていると分かれば近接状態にある今なら無効化できるもの。
だが、無効化されると分かっているリン姫は魔法をギリギリのところで使っているのだ。
魔法をいつでも使える状態にしておいて。
それならば魔極の瞳での魔法反応も出ず、陽炎という罠を使おうとしていることがばれない。
そしてなにより、無効化されることもない。する暇がないために。
シルフィ「………」
しかし、シルフィはその策になんなくついていく。
これぐらいのことは起きると予想していたのだろう。
陽炎の爆発に巻き込まれながらも、その炎を瞬時に瞳で消し、リン姫を探す。
次なる攻撃を、今正に攻撃を仕掛けようとしているエストレイアの姿を。
シルフィ「そこかっ!!」
捉えた。
その瞬間、咆哮と共に口に光が…。
あまりにも早い。
そして、
『シュッバァァァァァァン』
エストレイアは再び炎に。
これは…、
リン姫「もう一発…陽炎!」
陽炎。2連続使用だ。
シルフィ「ちっ…」
一度ならず2度まで。
これにはシルフィも驚かされた。
一瞬反応が遅れる。
炎の背後から姿を現したエストレイアは、横へ回りこむ。
リン姫(いけるっ!!)
そこへ、すかさず攻撃を振りかざす。
シルフィ(甘い…)
リン姫「ここぉ!!!」
シルフィ「ふんっ…」
も、シルフィの方が早い。
リン姫「しまっ…!!」
わずかに届かず、ヴァンヒューラの口に光が溜まり、放出される。
『ドバァァァァァァァァァァァァン』
その光はエストレイアに直撃。
大爆発が生じ、一帯は煙に包まれた。
陽炎は発動していない。
間違いなく直撃している。
エスタ(リン姫…)
遠くから眺めるエスタには爆煙の中のリン姫がどうなっているかは分からない。
エスタは祈った。
リン姫が無事であることを。
シルフィ「ふんっ」
倒した。
これを喰らって、至近距離で受けて生きてられるはずがない。
シルフィは確信していた。
エストレイアが朽ち果てていることを。
リン姫が死んだことを。
だが、
『ボワァァァァァァァ』
煙の中から何かが出てくる。
赤い赤い色が。
シルフィ「…!?」
目を大きく開く。
予想だにしない出来事。
シルフィ「馬鹿な、直撃のはず…?」
そんな疑問を抱く。
その姿が見えても信じられないほどに。
爆煙の中から姿を現すは赤き精霊。
リン姫の乗るエストレイア。
やられてはいなかった。
ボロボロのその姿、しかし以前とは違う。
光り輝かせ、神々しさを放つ。
そう、エストレイアの形状が変化していたのだ。
これは…、
リン姫「リミッター解除…」
リミッター解除モードだ。
シルフィ「なっ!?」
リン姫「魔極の瞳での魔法無効化…難しいものね」
シルフィの、ヴァンヒューラの攻撃を無効化しようとしたのだ。
無効化は仕切れなかったが、大幅に威力を削っている。
シルフィ「…こ、こいつ!!」
術式をかき乱し、威力の大半を失わせた。
リミッター解除モードの性能アップしたエストレイアならそこから攻撃を喰らっても耐えることは出来る。
その策は見事に成功した。
数%の賭けに勝ったといった感じだろう。
リン姫(かなり痛かったけどね。賭けに勝ってこんな痛いなんて…どうなのよ?)
リミッターをここまでギリギリの状態で解除したのはリミッター解除時の負担を考えてのもの。
また、シルフィの意表をつくことが大事なため、あらかじめ解除しておくことも出来なかったというのもある。
しかし、魔極の瞳で魔法効果を弱めるのは今のが初めて。
相手がシルフィということで失敗する可能性が非常に高い。
シルフィ「っ!!」
エストレイアとヴァンヒューラは超接近状態。
手が届きそうな距離だ。
シルフィは、ヴァンヒューラは目のすぐ前への攻撃の準備をする。
口からは黄色い光が。
リン姫「ふっ…」
リン姫は溜めていた魔力を解き放つ。
先ほどの攻撃を直撃で喰らった理由。
このために魔法をチャージしていたのだ。チャージしていたために魔法を使えなかった。
『ブゥゥゥゥン』
エストレイアが巨大なバリアを張った。
それもヴァンヒューラのライオンの顔のすぐ前に。
巨大な、リミッター解除モードの強力無比なエネルギーを用いた巨大なバリアを。
シルフィ(なっ…!!)
このままヴァンヒューラのこの攻撃が発動すると…、
リン姫「…自爆しろ」
シルフィ「しまっ…」
攻撃を停止するには間に合わない。
ヴァンヒューラの砲撃は放たれ、
『ボワァァァァァァァァァァァン』
バリアに阻まれて、ヴァンヒューラに、シルフィに爆発が降りかかった。
攻撃が跳ね返り、自分自身へと向かったのだ。
リン姫の言うように自爆という形で。
自分で使った魔法。ヴァンヒューラはまだしも、シルフィには大してダメージはないだろう。
が、不意打ちには、動きを止めるのにはピッタリだ。
強力無比なシルフィの魔法。
爆発はエストレイアのものをも上回る。
それだけに爆発の衝撃も煙の量も凄まじい。
エスタ(………)
眼を瞑っているエスタ。
次は自分の番、そのための身構え。
エストレイアは爆煙の中を突っ切り、光速でその場を離脱する。
煙へと向きかえり、
リン姫「化かし合いは…妾の勝ちね♪」
バトンはリン姫からエスタへと手渡される。
リン姫「エスタ、今よ!!」
エスタ「はい!」
セレナレナは青く光っている。
強力なエネルギーを溜めて。
最強の技を繰り出す準備は出来上がっていた。
エスタ「シルフィ…さようなら」
セレナレナの前に浮かぶ魔法陣。
溢れる光。そして、
エスタ「アクア…バーストエンドォォォ!!!」
発動した。
シルフィ「来る………なっ、これは!?」
アクアバーストエンドの反応を感じ取るが、シルフィが驚いたのはそれではない。
視界は黒く閉ざされていたのだ。
術式も見えない。
全くの黒の世界。
シルフィ(これは…なんだ? 見えない!?)
リン姫「ふふっ…」
リン姫(爆煙で気づくのが遅れたね)
リン姫が仕掛けたもののようだ。
リン姫「おやすみなさい、シルフィン=アビス」
真顔で。シルフィへの最後の挨拶として。
シルフィ「きぃさまぁぁぁ!!」
アクアバーストエンドは空間凝縮を行い、ヴァンヒューラを、シルフィを飲み込んでいく。
黒い霧と共に…。
エスタ(シルフィ…)
今度こそ…、そう思うと悲しみが押し寄せる。
一人哀愁に浸るエスタ。
一方リン姫は…。
闇に飲み込まれていくシルフィを眺めながら語る。
リン姫「魔極の瞳はあくまで眼力…」
説明が開始される。
リン姫「視覚によって扱えるもの、無敵の技なんかじゃ決してないわ」
指を立て、片目を閉じ、解説ウインクモード。
E・フィールド内、そんなことしてもそれが見えるのはイリスだけなのに…。
イリスはそんな御主人様のラブリーな姿にウキウキなご様子。
リン姫「視覚ってのは色がある。それを封じてしまえばいいのよ」
リン姫の使った黒い霧。
この霧も魔法のもの、術式はしっかりとある。
しかし、黒く覆われた霧はその術式さえも包んでしまう。
正確に言うと、術式と霧の色が全く同じなため同色化し、結果、術式が見えなくなったのだ。
分かりやすく言うと、黄色の文字に背景も黄色になるということ。
これでは文字など読めるわけがない。
魔極の瞳は視覚により働くもの。
聴覚や嗅覚など他の感覚は全く関係ない。
故に視覚特有の色というものを利用すれば、魔極の瞳は封じることが出来る。
リン姫「まったく、こんなチンケな魔法が役に立つとは…」
リン姫が使ったのは一定空間内を黒く覆う魔法。
これは中級魔法程度で、天級クラスの彼女達にはチンケとしかいいようがないほどのものだ。
勿論、これをかき消す術も心得ているだろう。
が、この状況だとそのかき消す暇がどこにもない。
なんせ消滅されかかっている時なのだから。
リン姫「最強の眼力も…やり方次第では簡単な魔法で破れるものね」
ほぼ独り言の説明に全く返答がない。
リン姫「…って聞いてる、エスタ?」
エスタ「えっ、あ…なるほど」
全然聞いていなかった。
消えゆくシルフィにただただ意識がいっていた。
シルフィを見送っていた。
エスタ(……)
かといって、リン姫の説明が理解できていないわけではない。
魔極の瞳が視覚なもので、使えなくなる条件というのも当然エスタは知っていた。
しかし、こうしてタイミングを練って使う技巧の方に感心する。
このタイミングでこういう戦法を取るのかと…。


リン姫「…っ!!」
電撃のような痛みが走る。
リン姫「ガハッ…」
血を吐く。
リン姫(痛っ……、これがリミッター解除? ほんの一瞬なのに、こんなのって…)
耐えられる痛みではない。
ぽたぽたと落ちる汗。
意識が朦朧とし、全身に激痛が走る。
リン姫「はぁ…はぁ……」
治癒魔法で身体を癒すも、走る痛みはそれすら凌駕する。
全然回復できない。
リミッター解除化したのはついさっき。
1分程度しか経っていないだろう。
その中でやったことといえば巨大なバリアを生み出したことぐらいなのだが…、それだけでこれである。
リン姫(エスタは…こんなのが平気なわけ?)
エスタが、究極兵器が本当に凄いものだと思わされた。
なんせ死すら連想させるほどなのだから。
リン姫「リミッターをさい…」
リミッターを再始動、そう口にしようとした。
その時、
エスタ「っ!? リン姫、下がって!!」
リン姫「えっ?」
『ガシャーーーン!!』
空間がはじける音。
光がピカピカとライトの如く点灯。
爆風が巻き起こり、エストレイアを飲み込もうとする。
とっさに、青色のバリアが発動。
エストレイアを柔らかく包む。
これはリン姫のではなく、エスタのもの。
リン姫「なん…だ?」
エスタ「シルフィは…生きています」
苦い顔をするエスタ。
リン姫「…!」
あまり驚きはない。
しかし、これ以上なくショックなこと。
そして、絶望…という言葉が脳裏に浮かぶ…。